数億年先まで残す『芯漆』とは。山崖松花堂が20年かけて作る漆器

山崖松花堂の芯漆

 令和6年能登半島地震後の2024年3月14日、『芯漆(しんしつ)』という世界初の技法で漆器を作っている、山崖松花堂(やまぎししょうかどう)に伺った。
 同工房は、江戸時代から石川県輪島市で輪島塗りの『塗師屋(ぬしや)』として続く老舗で、現在はご兄弟ふたり17代目として事業を継承している。
 漆(うるし)の研究を重ね『芯漆』という技法を世界初で開発し、それに人生をかけている山崖松堂(やまぎししょうどう)さん。そこで出来上がる作品の製法と魅力について伺った。
 車で山崖松花堂へと近づくと、震災の影響による通行止めなどにはまり、同じ場所をクルクルと走ることになった。このままバターになるんじゃないかと思った時にやっとたどり着いた。

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山崖松花堂の芯漆

 20年かけてひとつの作品を造る物づくり、気の遠くなるような年月から生み出される『芯漆』とは。
 数億年先まで進化しながら残るアートに人生を賭けているという山崖松花堂の山崖松堂(本名 山崖大治(やまぎしひろはる))さん。
 世界唯一の技法、そこから生み出される作品の素晴らしさは息をのむほどの素晴らしさと重厚な語りかけを感じる。
 手の指紋を使って磨き上げる作品の温かさと透明度は未来へ残すべくアートだと感じる。

山崖松花堂

芯漆のぐい吞み

芯漆とは

 山崖松花堂は代々続く輪島塗りの塗師屋として、その歴史は江戸時代ごろから続く。現在は17代目としてご兄弟でその事業を継承している。
 輪島塗りという漆器は、芯が木芯などの芯材でできているため、温度や湿度の変化により伸縮を繰り返す。そこに薄く塗った漆がついていかず、ひび割れたり剝がれたりのトラブルがついてくる。
 山崖松堂さんは、自分の塗った漆の修理に疑問を感じ、なんとか修理の必要ない、永遠の漆器を作り出せないものかと考えるようになった。
 それから漆についての研究する日々を送り、芯材を使わない、100%国産の漆だけを使った世界唯一の技法にたどり着く。

 それが、山崖松堂さんが「人生を賭けている」という『芯漆』だ。

制作にかかる気の遠くなるような歳月

 ひとつの芯漆が出来上がるまでには気の遠くなるような年月がかかる。
 発泡ウレタンでできた型に、漆を塗り、指で磨くを何度も繰り返す。木材の芯などを一切使わず、ひたすらウレタンに漆を塗り重ねていく。
 漆器としての厚みになったところで発砲ウレタンから漆器を外し、指を使って磨いていく。
 そしてひとつの作品が出来上がるのは制作開始から20年後とのことだった。

「20年かけてやっと漆器としての厚みができるんです」と山崖松堂さんは笑う。
 どう考えても笑い事ではない。そこにかける熱い想いと常人では想像できない忍耐力が必要だ。
 ひとつの作品を磨き上げると指紋がなくなってしまう。人間の手でしか磨けない、手で磨き上げるから、持った時の温かみや柔らかさが宿るのだとか。

「長い年月をかけて出来上がったときの喜びたるや」と山崖松堂さんは言う。「何物にも代えがたいものがある」

いざなぎ

20年かけて作る作品は半永久的に進化しながら残る

 漆の分子構造は、琥珀に似ていることが研究で分かっている。琥珀は数億年たって土の中から掘り出されても、その輝きは当時のそのまま。
 漆の場合は、年月が経てばたつほどに透明度が上がり、輝きを増す。
「出来上がった時が一番きれいなわけではなく、年月が経つほどに少しずつその輝きを増してさらにきれいになっていくんです」と真剣な面持ちで説明してくれた。

 一本の漆の木から採取できる漆は、およそ紙コップ8分目くらいとのこと。この貴重な漆を使って抹茶椀一つを制作すると、およそ5杯分くらいの漆を使う。
 しかも、山崖松花堂が手掛ける作品の漆は、国宝を修復する時などに使う最高級の国産漆しか使わない。

国産の漆

最後に・・・

 奥能登の輪島は、令和6年能登地震において甚大な被害を受けた。その地で今なお息づく輪島塗り文化は後世に残さなければならない代表する技術と作品だ。
 それを半永久的に残せるものを作り出そうとする世界唯一の技法で仕上げているのが『芯漆』とのこと。
 その技法とそこから生み出される作品に人生を賭けている山崖松堂さん。
 気の遠くなるような年月をかけて作り上げる作品に人生を賭けているだけあって、とてつもない信念と温かみある人柄を感じた。

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